弁護士が法改正等を読み、主に対話形式で説明を試みます。 司法試験で行っていた勉強法、いわゆるセルフレクチャー※を文字起こししたイメージです。 ※自分で自分に説明して理解や記憶を目指す、「夢をかなえる勉強法」(伊藤真著)等参照。 ※本文の法令・リンク先の情報は投稿時のものです。
2020年5月17日日曜日
法学26 法解釈の例 権利の濫用
甲
「黒部峡谷?黒部ダムの話?」
乙
「黒部峡谷にある、宇奈月温泉の話だね」
甲
「何をしていたの?」
乙
「他人の土地に引湯管を通していたらしいね」
甲
「土地の上じゃなくて地下も勝手に使うとダメなの?」
乙
「民法207条だね」
甲
「所有権の侵害になるんだね」
乙
「前回見たとおり、物権的請求権が認められそうだね」
甲
「しょうがないんじゃないの?」
乙
「ただ、このような事情が認定されたよ」
乙
「論点の分類④結論が妥当でない、とされたね」
甲
「濫用ということは、民法1条3項を適用したの?」
乙
「宇奈月温泉事件の昭和10年当時は、民法に権利濫用の条文がなかったね」
甲
「論点の分類でいうと①条文がない、でもあったんだね」
乙
「帰納法的に、解釈を明文化したんだね」
甲
「戦後に追加されたんだね」
乙
「日本国憲法との平仄を合わせる趣旨らしいね」
「衆議院で修正案として、原案に追加されたよ」
・民法
(所有権の内容)
第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
(土地所有権の範囲)
第207条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。
(基本原則)
第1条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
・憲法
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
大判昭和10年10月5日民集14巻1965頁
「所有権に対する侵害」「の存する以上所有者はかかる状態を除去又は禁止せしむるため裁判上の保護を請求しうべきや勿論なれども」
「該侵害による損失云うに足らずしかも侵害の除去著しく困難にして」
「縦令これを為し得とするも莫大なる費用を要すべき場合において第三者にしてかかる事実あるを奇貨とし」
「不当なる利益を図り殊更侵害に関係ある物件を買収せる上一面において侵害者に対し侵害状態の除去を迫り」
「他面においては該物件其の他の自己所有物件を不相当に巨額なる代金を以て買取られたき旨の要求を提示し」
「他の一切の協調に応せずと主張するが如きにおいては該除去の請求は単に所有権の行使たる外形を構ふるに止まり」
「真に権利を救済せむとするにあらず即ち如上の行為は全体において専ら不当なる利益の掴得を目的とし」
「所有権を以て其の具に供するに帰するものなれば社会観念上所有権の目的に違背しその機能として許ざるべき範囲を超脱するものにして権利の濫用に外ならず」
(第1回国会衆議院司法委員会第50号昭和22年10月27日等)
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=100104390X05019471027&spkNum=8&single
(我妻民法講義民法総則p35-6)
https://www.iwanami.co.jp/book/b260849.html
(我妻・有泉コンメンタール民法p24-7,436-7)
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8092.html
(新基本民法2p113-4)
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641138131
(法律の使い方p112-3)
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b25647.html