弁護士が法改正等を読み、主に対話形式で説明を試みます。 司法試験で行っていた勉強法、いわゆるセルフレクチャー※を文字起こししたイメージです。 ※自分で自分に説明して理解や記憶を目指す、「夢をかなえる勉強法」(伊藤真著)等参照。 ※本文の法令・リンク先の情報は投稿時のものです。
2020年5月3日日曜日
法学18 訴訟 白・黒・灰色
甲
「貸した物を返させるためには、
・貸す約束をした
・物を交付した
・終了つまり返す時期になった、
という事実を示すんだったね」
(本文参照:法学17 訴訟 何をするの?)
http://bengoshinobenkyou.blogspot.com/2020/05/17.html
乙
「示すというのを説明すると、主張立証だね」
甲
「主張と立証の両方を、貸主がするんだね」
乙
「貸主つまり返せという権利を認めさせたい側が、主張立証するんだよ」
「主張責任・立証責任がそれぞれあって、併せて主張立証責任というよ」
甲
「主張と立証って別だよね」
乙
「民事訴訟法的には別だよ」
甲
「別になる場合は?」
乙
「まず、主張は必要だけど立証しなくていい場合があるね」
「民事訴訟法179条に定めてあるね」
甲
「逆に主張が必要ない場合もあるの?」
乙
「あるよ」
「主張責任を負っていない側の相手方が主張する場合だね」
「不利益陳述というよ」
甲
「主張と立証ができたら『返せ』という権利が認められるんだね」
乙
「そうだね」
「返還請求権の存在が認められて、判決としては『認容』つまり勝訴だね」
甲
「逆に『貸していない』ことが立証されれば、『返せ』といえないね」
乙
「判決としては『棄却』つまり敗訴だね」
甲
「ないことを立証するのって、いわゆる『悪魔の証明』っていうんじゃない?」
乙
「『貸していない』ということは、そもそも何をどうすれば『立証』になるのかわかりづらいから、そう呼ぶこともあるね」
甲
「『貸していない』ことを立証したといえる場合はないの?」
乙
「例えば、交付つまり手渡していない、つまり目的物が自称貸主、つまり『返せ』と騒いでいる人の手元にあることが証明されちゃった場合は、貸していないと考えられるね」
甲
「どちらでもない場合もあるよね」
乙
「訴訟で『真実』がわかるとは限らないからね」
「白黒つかないグレーの場合だね」
甲
「わからないなら、判決出せないじゃない?」
乙
「判決を出さないわけにもいかないから、わからない場合は法律効果を認めない、つまり『返せ』という権利はないという判断をするよ」
「わからない場合に判断をさせるのが、立証責任だね」
甲
「証明された場合にだけ、法律効果を認めるんだね」
乙
「民事刑事とも、訴訟はそうだね」
「立証≒証明があったら刑の言渡し、証明がなければ無罪、というのが刑事訴訟法にあるね」
・民事訴訟法
(証明することを要しない事実)
第179条 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。
・刑事訴訟法
第333条 被告事件について犯罪の証明があつたときは、第334条の場合を除いては、判決で刑の言渡をしなければならない。
2 略
第336条 被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
(増補民事訴訟における要件事実 第一巻p18)
http://www.hosokai.or.jp/item/annai/data/200307-4.html#01
(要件事実マニュアル 第5版 第1巻p28-38)
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9255