甲
「使用貸借の場合、訴訟で『返せ』というにはどうするの?」
乙
「改正前民法597条1項の場合、契約で定めた時期になったという事実を示すんだね」
甲
「具体的には?」
乙
「民法(新旧)597条1項、141条によると
①返還時期の合意
②上記①の期間が経過
だね」
甲
「これだけで『返せ』といえるの?」
乙
「使用貸借の契約をしていることも必要だね」
甲
「具体的には?」
乙
「契約内容つまり合意を①から③に細かく分けると
①まず、
ア 使用貸借の目的物を
イ 借主が使用収益することを
ウ 貸主が認容
②次に、借りるんだから当たり前だけど
ア 借主が
イ 契約終了時に
ウ 返還すること
③そして、無償つまりタダで貸すのが特徴だから
ア 借主の使用収益を
イ 無償とする
だね」
甲
「これで契約成立なの?」
乙
「債権法改正後の、民法593条の要件はそうだね」
「さっきの『契約で定めた時期』つまり貸借期間・返還時期の合意も、契約成立に必要という見解もあるね」
甲
「要するに合意したことを示すんだね」
乙
「契約締結の『事実」だね」
「契約『成立』というのは、締結の事実を法的に評価した表現だね」
甲
「合意つまり契約締結の他に、契約成立なんかするの?」
乙
「締結は、民法522条1項の申込と承諾のことだね」
「527条のいわゆる意思実現・529条の懸賞広告でも、契約が成立したと評価されるんだね」
甲
「今までの話で
・返す時期になった
・契約成立(していた)
が必要とういことだけど、これで『返せ』という権利は発生するの?」
乙
「目的物の交付というのも必要だね」
「契約成立に必要なくなったんじゃないの?」
乙
「そうだけど、契約に基づく引渡し(目的物の交付)をしていなければ、返せというのは変だよね」
甲
「たしかに、渡していないのに『貸した』『返せ』はおかしいね」
乙
「諾成契約の賃貸借も、返還請求権の発生には『基づく引渡し』が必要とされるね」
甲
「まとめるとこうなるんだね」
・民法
(期間の満了)
第141条 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。
(契約の成立と方式)
第522条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
(承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期)
第527条 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
(懸賞広告)
第529条 ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず、その者に対してその報酬を与える義務を負う。
(使用貸借)
第593条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
(期間満了等による使用貸借の終了)
第597条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
(借用物の返還の時期)※改正前
第五百九十七条 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
(賃貸借)
第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
(要件事実マニュアル2p3,198-9,252)
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9256
(要件事実ノートp23)
https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=525890
(新債権法の要件事実p68)
http://www.jaj.or.jp/wp/wp-content/uploads/2015/09/books_no147.pdf
(我妻民法講義V2債権各論中巻1p220)
https://www.iwanami.co.jp/book/b260854.html
(増補民事訴訟における要件事実 第一巻p279)
http://www.hosokai.or.jp/item/annai/data/200307-4.html#01